心音は流れる川だ抱きしめたあなたの胸から海は生まれる | 増渕 絵理 (宮城県) |
ひまわりの影が大きくなってゆくもう一度だけ嘘を信じる | 尾内 甲太郎 (静岡県) |
自転車の後輪だけが錆びていくそんな感じで恋は終わった | 吉田 里香 (熊本都) |
またねって別れた後の手のひらに残った君の熱は群青 | 渡邉 美愛 (愛知県) |
ディナー後にあなたがマスクを着けたから今日のデートは終わりなんだね | 林 桃香 (愛知県) |
篝火が照らす夜神楽厳かに僕の知らない君が舞ってる | 荘子 隆 (宮崎県) |
初雪が散らばる街の雑音に紛れて君の静寂を聴く | 菅本 勇馬 (宮城県) |
自転車でカーブを曲がるとき恋は君の居る方三度傾く | 穴澤 優人 (新潟県) |
一組のアダムとイブの楽園として開かれた花柄の傘 | 小田 麻祐子 (茨城県) |
あまりにも真剣に見つめられるからむきだしの唇がうずいた | 我如古 莉子 (沖縄県) |
東から西へと風が吹くときにあなたが好きといってしまえり | 林 祐一 (福井県) |
図書館の防犯カメラの死角にて交わしたキスが二十歳のすべて | 星野 香織 (千葉県) |
その短い髪が左右に揺れきっとそういう風に夏も揺らした | 川瀬 大貴 (京都府) |
恋愛は意志だと思う君のこと好きでいようと決めることだと | 岡田 尚子 (兵庫県) |
水槽の魚を眺めるふりをするガラスに映る2人は青い | 小川 路世 (大阪府) |
婚約を解消した日雲ひとつない空のあを胸にしまつた | 小野 史 (東京都) |
どのような形にもなれる布となり私はあなたにかき抱かれる | 瀬戸内 光 (山口県) |
ラムネから君が溢れる炎天下期待すること言わないでくれ | 竹蓋 優羽 (埼玉県) |
演奏中思い浮かんだ君のこと譜面の上で迷子の私 | 渡邊 花菜 (神奈川県) |
紺色の学校セーター交換し冬過ごすのは二人の秘密 | 神田 拓海 (新潟県) |
面の中真剣な君のまなざしに吸いこまれまいと構えて稽古 | 乾 穂乃花 (東京都) |
雪解けの土の香りと水の音君ごしに来る新しい春 | 田口 笑未 (アメリカ) |
髪切ってかわいくなって超よくて見せたくなってバカだなあたし | 小草 奈々 (京都府) |
不自由な膝でごめんね小さめのステップでワルツを踊りましょう | 山下 美和枝 (福井県) |
君なんか横断歩道の黒いとこ踏んで私に落ちちゃえばいい | 齋藤 瑞月 (福岡県) |
君と行く場所は私のものになる胸には広い海もしまえる | 小池 弘実 (京都府) |
花冷えを理由にされて拒めないハグの背後にせまる遠雷 | 寺内 ゆり子 (千葉県) |
抱きしめた背中は想像より広く君は男だどうしようもなく | 田中 馨子 (青森県) |
早苗揺れ水面も揺れる水面に君の姿が緑をおびて | 宇都宮 千瑞子 (愛媛県) |
九十を過ぎても父は今もなお母に近づく男を憎む | 古賀 由美子 (佐賀県) |
コーヒーとミルクのような関係でふたりの「ちょうどいい」を知りたい | 木村 佳慧 (広島都) |
「約束だ迎えに来るよ何度でも」差し出す傘は告白に似て | 久保 ときわ (東京都) |
紙の上では青い春と書くくせに思い出すのは夏のことばかり | 山口 麗 (鹿児島県) |
気がつくと静かになったスマホから寝言がもれて今日も寝れない | 野田 琴菜 (静岡県) |
万緑の木々のざわめきミュートするその前髪に心ゆられて | 萩原 虎也 (福井県) |
今日こそはあなたに好きと伝えるぞ頑張れ僕の豆腐メンタル | 三瀬 響稀 (長崎県) |
少しずつ夏の気配が逃げていく離れはじめた心と一緒に | 菅野 愛華 (宮城県) |
桜咲き君が両手でつかまえる私の思い花びら添えて | 佐々木 由良 (福井県) |
ブランコのふるびた音が鳴りひびく君と私の愛しい時間 | 菊地 緋咲 (北海道) |
暗闇であなたの腕を探してるふれた瞬間恋の水しぶき | 前川 鈴 (北海道) |
あなたとの未来が無いと知った日はカラスの群れがやけに静かで | 植木 孝洋 (北海道) |
おはようとあなたと交わす一言がわたしの朝に光を運ぶ | 前田 奈実 (神奈川県) |
数学のノートのはじが破かれてそこにしるした二人の約束 | 新垣 紗也 (沖縄県) |
月見する「綺麗」と僕が「ええ」と君が君は月見て、僕は君見て | 久野 賢幸 (東京都) |
黒髪に触れた瞬間指先がしびれるのならもう恋だろう | 小林 菜々花 (新潟県) |
若き日の妻に「タダイマ」言いたくて玄関脇に遺影を移す | 小畑 定弘 (徳島県) |
大根の双葉にそっと土寄せし人と五十年耕して来し | 畠山 みな子 (宮城県) |
剥製にされた牡鹿と目が合ってあなたのことを考えている | 大野 博司 (埼玉県) |
「またね」って笑顔で別れた車窓から見えるは君と揺れる花韮 | 倉田 音香 (大阪府) |
小半時太鼓叩きて櫓下りビール飲み干すあなた逞し | 難波 美枝子 (岡山県) |
君からの返信がない翌朝は卵の黄身を少しいじめる | 坪井 麻衣 (東京都) |
日に焼けた肩ひもの跡が消えるまで忘れないから忘れさせないで | 蒔田 咲姫 (埼玉県) |
口笛を吹くようにして種を出す君の唇さくらんぼ色 | 渡辺 誠二 (福岡県) |
秋晴れの信号待ちでつぶやいた「やっぱり戻ろう」進めない恋 | 原田 優美子 (石川県) |
僕はトントン君はタンタン白杖のリズムは合図ともにともにの | 佐藤 勇児 (岐阜県) |
夏休み一緒に行った九十九里唇越しに塩を感じる | 出立 みのり (千葉県) |
風ひとつひとつに色がついてゆくきみと並んで世界を見れば | 神守 彩枝 (京都府) |
10年後ここで好きとか言うのかなブランコをこぐかわいい君ら | 浅野 未希 (東京都) |
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東京学館新潟高等学校 |
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福井県立武生商工高等学校 |
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湘南白百合学園高等学校 常盤木学園高等学校 北海道津別高等学校 |
コロナ禍はまだ終息しませんが、応募作品は二万首超という嬉しい結果でした。前回のアンケートを見ても好意的な内容は多く、審査に当たる私たちは大変励まされました。最終審査は昨年同様にオンラインでした。
最優秀賞は、増渕絵理さん。抱擁の中で感じた心音を「流れる川」の勢いと捉え、相手の存在の大きさに「海」を直観する。ダイナミックでイメージ喚起力のある作品です。
優秀賞は本来三首ですが、選歌後に一首が取り下げられました。残念なことです。尾内甲太郎さんの作品は、「ひまわりの影」に不穏さを感じながらも相手の「嘘」に恋の確証を得たい切実感が納得されます。吉田里香さんは、自転車の前輪に恋の先行きを託しながら下句に悲恋となった苦さが沁みてきます。
最優秀学校賞は、今年も東京学館新潟高校と福井県立武生商工高等学校が競い合いました。受賞は逃しても多くの作品を送って下さる高校の担当の先生方の熱意に感謝いたします。
「第 24 回あなたを想う恋のうた」の本審査会は大雪のため今年もオンラインで行われた。二万二千首弱の作品が集まり、更に喜ばしいことに二十歳、三十歳代の応募作品が増えた。
心音は流れる川だ抱きしめたあなたの胸から海は生まれる
増渕 絵理 ( 宮城県 )
審査員全員の票が入った作品。心音から川へ、胸から海へ時空が広がってゆき、伸びやかで瑞々しい一首だ。人は愛によって自然の一部となる。愛を信じる姿が美しく、かつ芳しい命の香りが感じられる。
東から西へと風が吹くときにあなたが好きといってしまえり
林 祐一 ( 福井県 )
相手がよくわからず、相手が好きだという自分の心もよくわからず、だからこそ愛という目に見えないものを、人は信じるのである。初めに、好きなのだ。初句二句はどんな言葉も可能だが、このフレーズに勝るものはない。
普遍的な人間のテーマである恋の、表現内容と表現技術の成熟を感じた今回だった。
まるで本審査の日を狙ったような大寒波の襲来で、今回もzoom での開催となりました。最優秀賞は全員が票を入れた作品。鼓動を川と感じるリアルさ、そこから海へと続くのだというはろばろとした至福感がすばらしい。同じ市から高校生の初々しい静謐な歌も秀逸に選ばれています。
心音は流れる川だ抱きしめたあなたの胸から海は生まれる
増渕 絵理 ( 仙台市 )
初雪が散らばる街の雑音に紛れて君の静寂を聴く
菅本 勇馬 ( 仙台市 )
地元福井からは、高校生から七〇代までの歌、
桜咲き君が両手でつかまえる私の思い花びら添えて
佐々木 由良 ( 鯖江市 )
東から西へと風が吹くときにあなたが好きといってしまえり
林 祐一 ( 敦賀市 )
不自由な膝でごめんね小さめのステップでワルツを踊りましょう
山下 美和枝 ( 鯖江市 )
初々しい得恋の喜びに見る桜のはなびら、告白の背中を押す風、不自由といいながら楽しげな七〇代のダンス、それぞれの想いに胸を打たれます。
急な寒波と大雪の影響によりオンラインの審査会となりましたが、応募作のレベルが高く白熱した議論が繰り広げられました。
心音は流れる川だ抱きしめたあなたの胸から海は生まれる
増渕 絵理 ( 宮城県 )
二句切れの歯切れよいリズムが、恋する人の持つ強さや自信を感じさせて印象的です。どくどくと鳴る心臓の音から川や海のイメージに広がる伸びやかさが、読んでいて心地よかったです。恋によって新しい世界が開かれていくのでしょう。
ひまわりの影が大きくなってゆくもう一度だけ嘘を信じる
尾内 甲太郎 ( 静岡県 )
自転車の後輪だけが錆びていくそんな感じで恋は終わった
吉田 里香 ( 熊本県 )
一首目は上句の景と下句の心情の取り合わせが巧みです。ひまわりの影が不安のように迫るなか、もう一度だけ相手を信じてみようと決意したのです。
二首目は「後輪だけ」という細かな提示に独自性がありました。半分だけブレーキがかかったような不完全燃焼だったのでしょう。恋の終わりの寂しさが深く滲みます。