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第 25 回

入賞作品

学校賞

審査講評

入賞作品

最優秀賞

「またあした」君の一言で気がついた君があしたの理由になってた 湊 櫂真 (三重県)

優秀賞

検索の単語のようにスペースを空けて座ればはじめてのデート 塚原 千陽 (埼玉県)
天と地のあいだにいくつ音階があるか教えるあなたはひばり 成田 圭子 (大阪府)
週5日僕たちだけの30分だった景色が廃線になる 浮田 大樹 (東京都)

秀逸

おすすめと君から借りた春琴抄もったいぶってページ繰る夏 中島 逢柚子 (埼玉県)
それ以上その子に触れるな恋敵こぶしの中で刺さる爪甲 村野 弘虎 (福井県)
軒下の滴の落ちる一点の雪だけ溶ける私の恋も 荒木 夏凜 (新潟県)
水田に君の手つかみ入ってくざわざわ揺れる苗と心よ 黒田 いちご (大阪府)
セーターを編まむと爪立ち君の背に巻尺まはせば潮の香のする 宮本 加代子 (岡山県)
君ひとり守れないのか夕立の激しさにビニール傘歪む 村田 一広 (山梨県)
首元がくたびれているTシャツを何度も着ちゃうような恋だね 中野 満友 (東京都)
散るさくら半透明の花びらの口約束のようなつめたさ 鈴木 えみ子(埼玉県)
きみが深く麦わら帽子かぶるから車窓の海の青が見えない 合志 るる (神奈川県)
校庭の百葉箱のようだったひとり静かな白シャツの人 平田 幸美 (石川県)

佳作

凛として天を目指してアマリリス芯ある君に似合う花だね 田邊 聖来 (栃木県)
朝一番走ってあなたに会いに行く夢の気配がまだあるうちに 小西 綾花 (長崎県)
数学のテストが早く解き終わる残りは君のペン音を聞く 佐藤 未来 (三重県)
風強い試合のバッターボックスで君の声だけ聴き分けている 桐生 心翔 (新潟県)
制服にチョークの粉がついていた荒く私を振り払わないで 田端 陸人 (埼玉県)
逢ひたしと告げてはならじ九十路君の晩節守りて生きむ 河野 ひさえ (千葉県)
お父さん好きよの寝言今夜また壊れる妻は春を生きてる 原口 朝光 (佐賀県)
君に詩集もらって好きになっちゃったへんちくりんな詩人の名前 福田 匠翔 (愛知県)
かみ合わぬ君との未来僕はもう古い規格の端子みたいだ 前田 謙 (静岡県)
会いたいとつぶやきながら歩いたよ花梨の青き実ひんやりとして 藤田 久子 (福井県)
合い鍵は玄関わきの雪だるま胸のあたりに埋めましたから 石田 泰生 (埼玉県)
明日また逢えるよろこび露地うらの地蔵の袈裟を直して帰る 池崎 冨実夫 (東京都)
木漏れ日を煮詰めたような声でしたスマホの中で微笑むあなた 小坂 桃香 (東京都)
一面にあふれるミモザいつだって君の手紙で春は始まる 鈴木 真理 (長野県)
君の吐く白い吐息を白いまま筆にからめて冬を描きたい 上原 健太郎 (東京都)

入選

未熟だな早すぎたんだこのトマトあなたを想う私みたいに 本間 湊也 (栃木県)
ぶつかって詫びようとして顔上げて君の瞳に吸い込まれたよ マテオハンスロス (愛知県)
凛としたあなたの射技に憧れた引き絞られた弓矢のように 阿曽 叶芽 (山形県)
文化祭君と抜け出し空き部屋へカーテンの裏でかわすくちびる 黒田 慧 (長野県)
イヤになるホイップ増しのパンケーキ君の愛ほど甘くて重い 渡邊 百合 (香川県)
チョウザメとジンベイザメが共生する生態みたいに離れたくない 堀 優香 (福井県)
ふれたくてふれられなくてふれたくて手をのばす先ミニチュアな君 阪下 萌代 (大阪府)
君のこと思うとなぜかはやくなる課題もチャリも心拍数も 髙田 和志 (福岡県)
放課後に君からポンとメール来る私と同じ夕陽を見てる 野口 彩花 (長野県)
あの人が勧めてくれた本を読む静かな時間も君からのもの 渡部 月偉 (新潟県)
どろだらけ長ぐつ洗う君のこと遠くで牛とみつめる私 小林 古代実 (大阪府)
あなたへの酸っぱい想いタルトへと一つ一つつみあげていく 池邊 由彩 (大阪府)
むかい合い一緒にまぜるいちごジャム甘い香りと赤い恋の実 阪本 桃香 (大阪府)
今だけは私と君の専用車両桜舞う中そっとキスした 佐藤 颯夏 (愛知県)
監獄で君は一生過ごせばいい愛情込めて見張ってあげる 岡田 璃音 (兵庫県)
空白の心に君が鮮やかな青を落とした高一の春 山口 歩斗 (群馬県)
あぁ君はこんなところで笑うんだ五度目のシフトで初めて知った 末野 有理 (東京都)
雪の降るこんな音かもしれなくて亡夫(きみ)と魂触れあう音は 清水 薫 (北海道)
あなたから抱きしめられるまで僕は僕のぬくもりだけで生きていた 北原 直人 (神奈川県)
赤電話十円玉を握りしめ時と競ったあの頃の恋 尾家 德次朗 (三重県)
口数が少ないかわり相槌を欠かさずにうつその君らしさ 鈴木 友梨 (福井県)
告白のようにハイネを諳んじるまだ十代の真ん中の君 山本 栞 (山梨県)
「好きです」が「でした」に変わる瞬間が見えてしまった土曜日の夜 竹内 実咲 (埼玉県)
右上をみつめて指折る生徒らはまっすぐ澄んだ恋のうた詠む 大野 絢香 (三重県)
砂糖菓子みたいな嘘をつく君を許してあげない齧ってあげる 長澤 雪 (大分県)
路地裏にひとりぼっちで眠る缶あの子のキスを奪った罰さ 境谷 春菜 (大阪府)
きみと乗る電車が地下へ潜るとき恋をしている表情を知る 遠藤 茉実 (愛知県)
逝く夏の花火の余韻の中にある君の睫毛が動いた微音 野口 遥菜 (群馬県)

学校賞

最優秀学校賞

東京学館新潟高等学校

優秀学校賞

本庄東高等学校

学校奨励賞

宇都宮白楊高等学校

福井県立武生商工高等学校(商業キャンパス)

大阪府立農芸高等学校

審査講評

第25回 万葉の里 あなたを想う恋のうた 本審査会

松平 盟子 氏

一月下旬の審査当日は大雪でした。自然の猛威に人間は無力ですが、多くの素晴らしい作品に出会えたのはありがたいことでした。

最優秀賞は、湊櫂真さん。「またあした」の「君の一言」に喜びを感じ、相手の存在自体が明日を生きる意味だとの気付きを率直に描きました。しなやかな表現力が魅力。

優秀賞の三人にも感心しました。成田圭子さんは、恋の歓喜の果てしなさを飛翔する「ひばり」とその声の「音階」の広がりに喩えました。イメージの喚起力が素敵です。浮田大樹さんは、通学(通勤)の三十分が二人にとっていかに幸福だったを「廃線」の悲しみとの対比で描きました。塚原千陽さんは、言葉を検索するときのように相手との間に「スペース」を入れて座る初デートを微笑ましく詠みました。「ば」の使い方が巧みです。

最優秀学校賞は本年も東京学館新潟高校。上位の高校はいずれも指導者の努力を感じます。生徒らのみずみずしい感性と心情に適う表現力を育てる責任と喜びが察せられます。

香川 ヒサ 氏

第25回「あなたを想う恋のうた」本審査は、北陸地方豪雪のためオンラインで行われた。大雪に自ずと大地震のあった能登半島の思われる中、粛粛と会は進んで行った。

「またあした」君の一言で気がついた君があしたの理由になってた

湊 櫂真 ( 三重県 )

恋とは、見も知らなかった人を愛してしまうこと、そんな自分に驚き自分が今ここに在ることに気付くこと。恋する自分への驚きが瑞々しく歌われた。作者は、高校生。

天と地のあいだにいくつ音階があるか教えるあなたはひばり

成田 圭子 ( 大阪府 )

恋の歌とは、恋する人を褒めたたえる歌とも言える。だから、向日葵や太陽や海に喩える歌は多い。雲雀に喩える歌もあるけれど、作者は、雲雀の歌声の素晴らしさを「天と地のあいだにいくつ音階があるか教える」と細やかに繊細にかつ格調高く表現した。

今年度の「恋のうた」は、格調の高い歌が多かった。二十五年でここまで来たのである。

紺野 万里 氏

大雪警報が出て、急遽、本審査は今年もZoomになりました。

今回も、入選歌は高校生の作品が半数を超えています。そして質も高いと感じました。本気で短歌に向かっているという思いの強さが伝わってきます。審査員四人全員が選んだ最優秀賞も高校生の歌でした。

「またあした」君の一言で気がついた君があしたの理由になってた

湊 櫂真 ( 十六歳 )

「理由」という論のことばを使いながら、君への思いがあふれている歌。君に会えるという明日に、静かに光が差すようです。

それ以上その子に触れるな恋敵こぶしの中で刺さる爪甲

村野 弘虎 ( 十七歳 )

こちらも高校生ですが、睨みつけているような激しさで迫力があります。一方、高齢の方がたの作品も、胸に深く染みてきます。

お父さん好きよの寝言今夜また壊れる妻は春を生きてる

原口 朝光 ( 八十五歳 )

いちばん輝いていた頃の自分に戻っている妻。「好きよ」という一言は、厳しい介護の日々に、ひとときの微笑みをもたらすのでしょう。

松村 正直 氏

昨年に続いて今年も大雪の影響でオンラインによる審査会となりました。一首一首の歌について審査員同士で一日かけて語り合うのは実に楽しい時間です。

「またあした」君の一言で気がついた君があしたの理由になってた

湊 櫂真 ( 三重県 )

下句のストレートで力強い言い方が印象的でした。「またあした」という日常的な挨拶が別の表情を見せますね。君と会えることが自分にとって日々の喜びになっているのだと再認識したのでしょう。

週5日僕たちだけの30分だった景色が廃線になる

浮田 大樹 ( 東京都 )

いつも通学で一緒に乗っていた電車の車窓風景。もう二度と眺めることはできないし、そこで過ごした時間も取り戻すことはできません。でも、その思い出は今も鮮やかに作者の胸に残っているのです。
「あなたを想う」気持ちが、私たちの日々の暮らしや人生を豊かにするのだと、あらためて感じました。