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第 26 回

入賞作品

学校賞

審査講評

入賞作品

最優秀賞

恋みくじ今日は大吉引いたからポニーテールを高くしてみる 赤澤 采羽(福井県)

優秀賞

弁当は君への手紙陽だまりをたっぷり包むオムレツ入れる 塩原 まなみ(長野県)
肉まんをほおばる前にきみのする助走のような息継ぎがすき 北原 陸(大阪府)
自転車を挟んで歩く後輪にふたりの無言を絡ませながら 大津 瑞貴(奈良県)

秀逸

バスケ部の練習急ぐ階段でぶつかる君のごめんに恋した 近藤 ななみ(新潟県)
国道の錆色をした歩道橋渡り切ったら君忘れます 勝山 里桜(新潟県)
テストの後のコンクリートの河川敷ゆっくり流れる君との時間 石井 涼(新潟県)
袖ビーム、まばたき、追いかけっこ、夢中、星、ヴァイオリン、カメラ、二人で 北原 大地(神奈川県)
うそつきは恋のはじまり穴あきのおたま揺らして掬う湯豆腐 小野 史(東京都)
数式を展いたような朝だった雪の中から君が出てきた 福田 匠翔(愛知県)
放課後に君に抱かれているチェロのとろけるような音色が嫌い 川島 祥生(北海道)
君の名を呼ぶたび長音符が生まれ二人で春の風にくるまる 川上 真央(東京都)
君のこと友達に変えた歳月をまるめて捨てて乗る夜行バス 山田 恵子(兵庫県)
花の名を教えたひとの妻になりその花の名の子を抱く五月 碓井 やすこ(アメリカ)

佳作

「ばいばい」から「また明日」へと変わった日カレンダーには大きなハート 松本 愛(福井県)
時間差の花火の音のする受話器一緒に居たい十六の夏 藤井 琉輝(新潟県)
八月のゴールネットを揺らす時スタンドにいる君一度見る。 佐々木 遼翔(新潟県)
時間とは違うはやさでこのバスはあなたの元に向かっています 猪野田 涼奈(神奈川県)
届けたい思いに限ってラッピングしすぎてうまく、うまく言えない 佐野 晃太(神奈川県)
足らないや筆や絵の具も足らないやこの額縁も君描くには 畑 敬悟(三重県)
20時まで引き止められぬシンデレラ落として行った左のイヤホン 平田 にこ(大阪府)
かげの語に光の意味がありますねあなたを見上げる目を細めます 津 愛莉(千葉県)
萩の花いくつもの恋してきたと振り返るとき君だけがいる 木下 美樹枝(群馬県)
君がくれた手紙を読みに戻りたい十四の春に祖母が破った 西岡 美智子(東京都)
閉じている小さな窓をひとつずつ開けていくようにあなたが好きだ 大野 博司(埼玉県)
「忘れて」も「忘れないで」も同じだと知らぬあなたの手は握れない 山本 絵蓮(兵庫県)
岸辺にて夜光虫すくふ君の手がほのかに光るをふりむきて見す 宮本 加代子(岡山県)
束にした旧姓宛名のエアメールサブレの缶に甘く色褪せ 永井 梨枝子(神奈川県)
くちづけはバターみたいにとろけていって私は前よりひとりぼっち 小澤 和歌子(北海道)

入選

愛してるお前のことを愛してるはじけるようにパチパチわたあめ 一井 心杏(兵庫県)
風が来て振り返ったら君がいた私の好きな桃の香りだ 宮部 瑠璃(大阪府)
一度だけ撮ってもらったツーショット写真の外でも隣にいたい 嶋田 結衣(静岡県)
つりかわをぎゅっとにぎって君の横鼓動おさまれ音漏れ注意 刀野 悠菜(福井県)
まがり角君がいるかを確かめてゆっくりこぐよ朝の自転車 末長 千弘(福井県)
恋愛は恋と愛でなる失恋は愛だけ残るだからくるしい 大上 華倫(大阪府)
ただ君に「一緒に帰ろ」言うだけで十月の空は色変えて行く 楡原 光貴(新潟県)
明日もし眼が合った時外らさずに見つめ合ったらそれは告白 小林 瑞宙(新潟県)
戦死した白黒写真の祖父語る祖母の話の鮮明な色 福島 天音(新潟県)
いつの日か開いてほしいコンサートエリーゼじゃなくて私のために 知念 歩音(沖縄県)
たまには、と日曜の朝に散歩してあなたにばったり会えたら、とかさ 柳原 萌々子(神奈川県)
君に似たトロンボーンのBの音この一息であなたを作る 小野寺 アキ(三重県)
夏休み茎を伸ばして花開き振り向いて欲しい僕はひまわり 和田 大河(福岡県)
陽を浴びて真っ赤になったミニトマト丁寧に摘んでいくような恋 真方 夏美(東京都)
五月雨に貴方と傘を共にするまだ真っ白な紫陽花見つめて 多田 吉剛(兵庫県)
声掛けて野菜を作る君のこゑ聞きたい時はニンジンとなる 畠山 みな子(宮城県)
ジャズバンド組んだ僕らに恋芽生え老いらくなんて言わせはしない 請関 邦俊(埼玉県)
好きなのはあなたじゃなくてあの時の咲きほこってた桜の方だ 神谷 真奈(静岡県)
風を切り君のもとへと駆け抜けて繋ぐバトンはこの空の色 中山 栞那(大阪府)
水切りの石が六回はねたなら銀河鉄道君と乗れるね 池崎 冨実夫(東京都)
君が寝て僕は君のこと考えるなんか少しだけ勝った気分だ 青山 ひかり(福井県)
月曜は初雪になるとどうしても教えたくって電話をかける 石井 周子(北海道)
「好きだよ」と手を握る君は手袋で結婚指輪の息を止めてる 田本 友佳子(愛知県)
となり合うメトロノームが同期して相思相愛みたいに揺れる 小高 由紀(広島県)
雪だるまみたいにぼくら融け合って一つの水たまりを作ろう 有賀 拓郎(長野県)
こんここん雪降り積もる通学路兎みたいな君が手を振る 圖司 鈴音(北海道)
君の街を雨雲レーダーで見てるとき恋人前夜のひかりが届く 田本 悠馬(愛知県)
くちびるを離したときに混ざりあうふたつの息が冬を追い越す 山本 栞(山梨県)
お揃いで開けたピアスもいつの日か僕らの歴史の注釈になる 椛島 由佳(福岡県)
初恋が二度目以降の恋をまたバカにしている秋の風鈴 佐々木 泰三(長崎県)
君の手が離れたあとの冷たさを温かさより噛みしめてしまう 大内 南実(東京都)
ペトリコール、においできみを思いだす夢だと思いつつ夢をみる 池田 真理(和歌山県)
今日ここにいてはならない二人ゆえ由布の水面(みなも)に影はうつらず 利光 弘子(大分県)

学校賞

最優秀学校賞

東京学館新潟高等学校

優秀学校賞

福井県立武生商工高等学校(商業キャンパス)

学校奨励賞

神奈川県立光陵高等学校

三重県立相可高等学校

関西大学第一高等学校

審査講評

第26回 万葉の里 あなたを想う恋のうた 本審査会

松平 盟子 氏

コロナ禍以来つづくZoomでの選考会。モニター越しでおこなう意見交換により今年も優れた作品と出会えました。若い世代の健闘ぶりが素晴らしく、驚かされました。

最優秀賞は、赤澤采羽さん。「ポニーテール」の似合う十七歳の少女が引いた「恋みくじ」は「大吉」で、ヤッタ!の気分そのままに高高と髪を上げたのですね。

優秀賞の三人はすべて二十代。瑞々しさが特徴です。塩原まなみさんは恋人への「弁当」を「君への手紙」と捉え「陽だまり」にも似た黄色の「オムレツ」を入れたと。北原陸さんの歌は着眼点で勝負。大きな「肉まん」を一気に食べる直前の「助走のような息継ぎ」から健康でまっすぐな愛が伝わります。大津瑞貴さんの歌は「無言」のまま「自転車を挟んで歩く」二人の姿に余韻が。下の句からは恋のもどかしさを感じさせます。上位作品はどれも描写が具体的。さまざまな素材を感情の流れに沿って生かし切る技術があります。

最優秀学校賞は本年も文句なく東京学館新潟高校。優秀学校賞は盤石の福井県立武生商工高等学校。学校奨励賞の三校を含め、指導者の力量がしのばれます。生徒の言葉の力を引き出し自覚的な表現に導く。感銘を覚えます。

香川 ヒサ 氏

第26回「あなたを想う恋のうた」の本審査を無事終えることが出来、喜んでいる。優れた応募作品が多く、何時にもまして熱っぽい会となった。

恋みくじ今日は大吉引いたからポニーテールを高くしてみる

赤澤 采羽 ( 福井県 )

恋への憧れが明朗に歯切れよく歌われ、読んでいて爽快になる作品だ。恋みくじの大吉を引いたという具体的な出来事とポニーテールを高くするという具体的な行動を述べて、自らの思いを示唆している見事な作品。

国道の錆色をした歩道橋渡り切ったら君忘れます

勝山 里桜 ( 新潟県 )

別れの啖呵を切った歌である。えっ、作者は十五歳、と審査員一同驚愕した。「国道の歩道橋渡り切ったら」とは言えても「錆色をした歩道橋」とはなかなか言えない。この具体が一首の決め手になっている。

テストの後のコンクリートの河川敷ゆっくり流れる君との時間

石井 涼 ( 新潟県 )

テストの後の寛いだ時を君と川の流れを見ている。自然と一体になった君と作者、二人の間の信頼感が滲み出ている。普遍的な愛の形が表現された作品だ。

本年も高校生の秀作が目立つ。

紺野 万里 氏

令和六年は、北陸新幹線の延伸や、大河ドラマ「光る君へ」の主人公紫式部が若い頃に住んだ場所として、武生(現越前市)がしばしばメディアに取り上げられました。ドラマの中で引用された和歌が話題になったりして短歌が身近になり、興味をもつ方が増えたようです。
千年以上前の詩型が今もそのまま現役で存在することは、世界でもまれなことと言われています。二十一世紀を生きる私たちが、千年前の歌を読んで味わうことも、また自分で詠むこともできるというのは、ほんとうに素晴らしいことだと思います。

恋みくじ今日は大吉引いたからポニーテールを高くしてみる

赤澤 采羽 ( 福井県 )

岸辺にて夜光虫すくふ君の手がほのかに光るをふりむきて見す

宮本 加代子 ( 岡山県 )

花の名を教えたひとの妻になりその花の名の子を抱く五月

碓井 やす子 ( アメリカ )

はつらつとした高校生のポニーテール。今回も高校生の活躍が目立ち、入選作のほぼ半数が高校生の歌でした。二首目、夜光虫の光が美しい歌は最高齢八十六歳の方の作品です。三首目はアメリカからの投稿で、若い母親のよろこびに満ちた歌。恋人時代の思い出を込めて名付けたみどりごが、腕のなかで花ひらくように笑むのでしょう。花の名は、と想像がひろがります。

松村 正直 氏

今回も選考を通じて数多くの素敵な歌と出会うことができました。特に高校生の作品のレベルが年々上がっています。自分の思いをストレートに述べるだけでなく、具体的な物や場面を詠み込んだ歌が増え、歌に深みや厚みを感じました。近年の短歌ブームの好影響なのかもしれません。

恋みくじ今日は大吉引いたからポニーテールを高くしてみる

赤澤 采羽 ( 福井県 )

髪を結う位置によって気分も変ってくるのでしょう。場面や動きが鮮明に見えてきて、何か良いことがありそうという期待感や心の弾みが伝わってきました。

弁当は君への手紙陽だまりをたっぷり包むオムレツ入れる

塩原 まなみ ( 長野県 )

「手紙」「陽だまり」という二つの比喩に、君に寄せる暖かな思いが滲んでいます。

肉まんをほおばる前にきみのする助走のような息継ぎがすき

北原 陸 ( 長野県 )

確かに最初の一口を嚙む前にスーッと息を吸い込みますね。その発見が新鮮でした。

自転車を挟んで歩く後輪にふたりの無言を絡ませながら

大津 瑞貴 ( 奈良県 )

自転車を押す人とその向かい側を歩く人。二人の心の内が透けて見えてくるようです。

藪内 亮輔 氏

全体として歌のレベルが高く、楽しい審査となりました。若い人の修辞や視点の鮮やかさにも驚きました。「想う」ことの底知れない力を感じます。

恋みくじ今日は大吉引いたからポニーテールを高くしてみる

赤澤 采羽 ( 福井県 )

生の肯定感が噴水のようにあふれる、まぶしい歌です。ちょっとした仕草のポジティブさと、「みる」の軽やかさが心地よいです。

優秀賞作品もそれぞれが魅力的でした。「弁当」の歌は上の句・下の句のどちらにも内容がありやや重めですが、オムレツの色彩感覚が非常に鮮やかです。「肉まん」はよく分かる場面を捉えていて、比喩がとても的確で面白い。「自転車」は「後輪」であるところにいじいじした気持ちが滲みます。

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